当館には、花や置物などを飾ることのできるスペースがたくさんあります。竣工当時には屋上にプランターやフラワーポットもあったそうです。
通常、女性スタッフが周辺の草花を館内に飾っていますが、2年ほど前から2カ月に1度、芦屋市在住のフラワーアーティストである岸本忍様に生け花をお願いしています。
当館の幾何学模様の中に生けられたお花は、いつも心を和ませてくれます。これも、自然との融合を目指すフランク・ロイド・ライトの“有機的建築”の一つの要素なのかもしれません。
今回は、今までと少し趣を変えて、お花と当館について岸本様とアシスタントの村田佳子様にお話を伺いました。
― 改めまして、現在のお仕事の内容は?
岸本:お花のレッスンと販売です。お店は1階がショップ、2階がレッスンスタジオになっています。レッスンは、普段の生活を楽しむコースや、花の先進国・オランダの国家認定資格であるDFA(Dutch Flower Arrangement)の取得を目指すコースなど、趣味からライセンスまで幅広くさせていただいています。イベントや結婚式用のお花なども作っています。
― お花を始めたきっかけは?
岸本:以前OLをしていたのですが、その時にモデルルームを見る機会が何度もありました。そこに生けてあったお花が、他の調度品とのコーディネートもあってすごく素敵で興味を持ったことが最初のきっかけです。
そして、女性の感性を活かした何かをしてみたいと考えたときに、仕事で接していて身近に感じていたお花を習ってみようと思いました。
村田:友人のお宅にお邪魔したとき、岸本先生がデザインされたお花が飾られていたんです。そのデザインにすごく心を惹かれて、自分もお花に興味を持ち、レッスンを受けに行きました。オランダの国家認定資格も取得して、今はこうしてアシスタントとして働いています。
岸本:私は始めたばかりの頃、なかなか上達しなくて…。両親からも「向いていないんじゃないか」と言われていました。ですので、初心者の方など、なかなか上手になれない方もいらっしゃるのですが、その方の気持ちがすごくよくわかります。

岸本忍様
― 上達の秘訣は?
岸本:資格を目指すのでなければ、感性のまま好きなように楽しんでいただければ良いと思っています。ただ、この「好きなように」というのが難しいんですね。ご自分の感性をお花で表現できるようになっていただくためにレッスンをしていますが、最後はやはり“好き”という気持ちと“続ける”ことが大切だと思います。私もそれで、お花にかかわる仕事ができるまでになりました。レッスンをすることがすごく好きなのですが、こういった自分の経験したことを伝えたいという気持ちが、続けている大きな理由かもしれません。スクールを卒業した生徒さんが、それぞれお花を楽しまれていたり、活躍されている姿を見ると、とても嬉しいですね。
― お花の良さとは?
村田:綺麗なのはもちろんですが、お花は生きているので“気”というかエネルギーを貰うことができます。仕事と家庭の間で大変なこともありますが、お花に触っているだけでとても元気になります。仕事の時間はいつもあっという間ですね。
岸本:このお仕事は、花の良し悪しや作品の出来栄えなど結構ストレスや葛藤もありますが、私もお花を触っていると元気になりますね。レッスンは主婦の方が多いのですが、皆さんお元気で、お綺麗な方も多いです。これは、好きなものを触っているとか日常の生活から離れるということもあるのでしょうけど、お花から気をもらっているのも理由の一つだと思います。

左:村田佳子様 右:岸本忍様
岸本:このような場所でお花を生けるのは、すごく良い経験になっています。もともと、自然との調和を意識し、自然へのリスペクトをもってお花を生けていますが、フランク・ロイド・ライトの建築思想にとても共感します。作り込みすぎると雰囲気にそぐわなくなると思いますので、来館者の思いを大切に、建築の邪魔にならないよう気を付けています。お花があると部屋の雰囲気が全然違いますので、その空気感をうまく演出できたらと思っています。
― 館内で生けたい場所や花は?
岸本:たくさんありますよ。今よく飾っている受付の階段を上がった途中にある場所も良いのですが、和室の隣にある家族室や、玄関の水盤のような大谷石のコーナーなど、石と花とのコラボレーションができたら素敵ですね。10~3月の花が長持ちする時期には、季節を少し先取りした花を飾り、夏にはその時期特有のグリーンと実のものを飾るのも良いかもしれません。そのままドライフラワーのようになって長く楽しめる花もありますので、いろいろ考えてやっていきたいと思っています。建物との調和を感じていただければ嬉しいです。
― 昨年館内でレッスンをしていただきましたが?
岸本:私も生徒さんもすごくテンションが上がりました。このような素敵な雰囲気の中で生け花ができるのは、普段とは違うものを自分の中に感じることができて、生徒さんにとっても良い経験になったようです。ふんだんにお花を用意し、大谷石に似た大きな花器を持ってくるなど準備は大変でしたが、贅沢な時間を過ごすことができて、生徒さんには喜んでいただけましたし、私も嬉しかったです。他のお花の先生でも、この建物でのレッスンを希望されている方は多いのではないでしょうか。制約は多いと思いますが、今後も文化的な活用はぜひお願いしたいと思います。


― 当館は今後、様々なイベントを企画していこうと考えています。どのようなイベントを企画してみたいですか?
岸本:イベントというほどではないかもしれませんが、いつもより特別に迎賓館全体をお花でトータルコーディネートするような企画をしてみたいですね。この建物はすごくお花が映えるので、来館された方も喜ばれるのではないかと思います。例えば応接室でしたら、小窓のところからグリーンを垂らしてみたり、暖炉を飾ってみたり…想像が膨らみます。雛祭りや秋のイベントに合わせて開催してみてはいかがでしょうか。
― ありがとうございました。
お二人ともとても華やかで、眩しい笑顔が印象的でした。お仕事に対しても凄く前向きで、言葉の端々からお花への愛情と情熱が伝わってきます。「お花からエネルギーをもらっている」とおっしゃっていましたが、我々スタッフもお二人からエネルギーをいただきました。
さて、今回のインタビューでは「お花」というテーマを通して、いつもとは少し違う視点で当館を見ていただくことが出来たのではないでしょうか。今回お聞きしたお話を、今後の運営にも活かしていければと思います。まだ具体的な予定はありませんが、岸本先生がおっしゃっていたイベントもいずれ企画できたらいいですね。
次回の岸本先生による作品の展示は10月31日からです。
生花の展示に合わせてご来館いただき、季節のお花とライトのデザインによる心地良い空間を体験してみませんか?
岸本忍様が主宰を務めるアーティフィシャルフラワースクール
Shi's wish(シーズウィッシュ)
http://www.dfa-kobe.jp/