フランク・ロイド・ライトが手掛けた日本の業績で共通する特徴の一つに、「大谷石(おおやいし)」があります。
外装材として使われることが多い大谷石を、内装にも取り入れたのはライトが初めてだと言われています。
当館でも外装材としてだけではなく、館内の暖炉や柱、階段などに使用されていて、それぞれに幾何学的な彫刻が施されています。

応接室の暖炉や柱に使用されている大谷石
今回は、この大谷石についてご紹介します。
大谷石の産地は、栃木県宇都宮市大谷町。
まだ日本が海の底だった時代に、海底火山の噴火により噴出した火山灰などが海中に堆積し、長い年月をかけて固まってできた“凝灰岩”の一種です。
石の特徴としては、多孔質で軽くて軟らかく加工に適しています。
中にはミソと呼ばれる粘土質で茶褐色の部分があり、ここが時の経過と共に空洞化し、独特の暖かみのある風合いを作り出します。
また、耐火性に優れていることから、主に石造りの蔵の外壁や石塀などに多く使用されてきました。

大谷石・茶色の箇所がミソ

ミソ部分が空洞になった大谷石の柱
その利用の歴史は古く、縄文時代にまで遡ります。
本格的な採掘が始まったのは江戸時代の中頃。それまでは農業の合間に採掘されることが多かったようですが、この頃には専門の職人が現れました。
明治時代には交通機関の発達と共に、関東を中心に全国へと出荷されるようになったそうです。
ライトは、帝国ホテルに使用する石として、最初は石川県で採掘される菩提石(蜂の巣石)を考えたようです。ところが産出量が少ないために断念して、代わりに大谷石が選ばれました。温かみのある風合いと彫刻を施しやすい軟らかさをお気に召したようです。

菩提石(蜂の巣石)
帝国ホテルでは大量の大谷石が必要になるため、ライトの下で帝国ホテルの建築に携わっていたアントニン・レーモンドと内山隈三が宇都宮に出向いてひと山購入しました。今でもその山は“ホテル山”と呼ばれて残っています。
(アントニン・レーモンドについてはこちらの記事でも紹介しています)
余談ですが、帝国ホテルで使用されたレンガには愛知県知多半島の粘土が採用され、常滑に「帝国ホテル煉瓦製作所」という帝国ホテル専用の会社が設立されました。そこで技術顧問をしていた方が、ホテル竣工後に設備と従業員を引き継いで会社を興しました。それが伊奈製陶株式会社で、後の株式会社INAX、現・株式会社LIXILです。
どちらもスケールが大きい話ですね。

大谷町・ホテル山
大谷町には、大谷資料館という昔の採掘現場を見学できる施設があります。
地下に約2万平方メートルの巨大空間が広がり、ライトアップなどの演出もあってとても幻想的です。
坑内の平均気温は8℃前後で、今年の1月に訪問した際は3℃でしたが、寒さを忘れるほどの迫力でした。
大谷町周辺には、大谷石を使用した建物や蔵がたくさんあり、採掘現場や採掘されて切り立った崖のようになった山が続き、独特の風景が広がります。
近くに行かれる際には、立ち寄られてみてはいかがでしょうか?