ライトが大谷石を採用した理由とは?
ヨドコウ迎賓館に来館された方のご質問で特に多いのが、内外装に使われている石材は何かということ。この石材「大谷石」(おおやいし)と呼ばれ、栃木県宇都宮市大谷町一帯で採掘されています。大谷石といえば、同じライト作品として名高い旧帝国ホテルにも使用され、日本に於けるライト建築を特徴づけるものといわれています。実は、当初検討していたのは、大谷石ではなく、よく似た島根県産の「蜂の巣石」だったとか。しかし、産出量が少ないため断念したようです。それはともかく、ライトはなぜ大谷石に決定したのでしょう?その理由を解明してみたいと思います。
ライトならではの装飾効果に不可欠
ヨドコウ迎賓館では、外観をはじめ、内部の柱や階段など至る所に大谷石が使用されています。しかも、単なる石の塊ではなく、周辺の植物をモチーフにした細かな彫込みがポイントです。つまりライトは、彼独自の幾何学的な装飾模様を施すことを大前提に、やわらかくて加工のしやすい大谷石を選んだといえます。また、表面にでこぼこのある質感がやすらぎを醸し出し、褐色がかった暖かな色合いが外壁などの色調としっくり調和しているのも見逃せません。今から約二千万年前の火山活動でできた凝灰岩なので、樹木や貝殻が混じっている場合もあるそうです。
内外装に多用したのはライトが初めて
加工のしやすさに加え、自然の趣き深さが感じられる大谷石は、自然をテーマとしたライトの建築思想を表現するのにふさわしい石材だったといえます。もともと大谷石は耐火性に優れていることから、主に蔵や塀・門柱などに使われていましたが建築石材として内外装に多用したのは、ライトが最初とされています。当時(大正時代)もてはやされていた御影石ではなく、手垢のついていない大谷石を採用したところに、ライトのデザインに対するこだわりがあったといえるのではないでしょうか。
話題のスポット探検 『大谷石のふるさとを訪ねて』
※本稿はヨドコウ迎賓館の保存修復を監理されている(財)建築研究会の平田文孝先生のご教示をいただき淀川製鋼所が作成したものです。