今回は内裏雛のそばに飾っている調度品についてご紹介します。
近年の雛人形ではあまり見られないものもあるためか、来館された方からもよくお問い合わせを頂きます。
この男雛と女雛の前に飾っているものをご存じでしょうか?
これは犬筥(いぬばこ)と呼ばれるものです。
顔は人間の子供で、体は犬を表しています。雌雄一対で、左向きが雄、右向きが雌となっています。読んで字の如く、犬“筥”は体が上下に分かれる“箱”になっており、中に安産のお守りや白粉などを入れて使っていたそうです。当館の犬筥は人形用のミニチュアのため15㎝ほどですが、実物は30~40㎝ほどの大きさがあります。
昔の公家などではこれを花嫁道具として持参しました。犬は多産であり、またお産が軽く、産後の肥立ちも良いといわれています。そのため、生まれてくる子供の安産と健やかな成長を願って、犬筥がお守りとして用いられるようになりました。産後は、子供の守り神として枕元に置かれたそうです。
次に、女雛の隣に飾っている天冠(てんがん)をご紹介します。
天冠とは、幼帝が即位のときに被る冠のことです。
この天冠の所有者は女雛になります。近年ではあまり見かけませんが、江戸時代に多く作られた享保雛などでは天冠を被っている女雛がよく見られました。
当館の女雛は 「御垂髪(おすべらかし)」という上下左右にボリュームのある髪型をしているため、天冠を被ることが出来ません。そのため、こうして隣に飾っています。
正面には、人形の依頼主である山邑家が造る酒銘「櫻正宗」の商標にちなんだ桜の紋。冠から複数垂れ下がっている、瓔珞(ようらく)という飾りの先には、本物の珊瑚が使われています。
近くで見ると人形用だとは信じられないほど、精巧かつ豪華に作られていることが分かります。
雛人形を見る時、つい人形の方にばかり目を奪われてしまうかもしれませんが、段上を彩る調度品にも手の込んだ名品が揃っています。
ご来館の折には、是非細かいところにも目を向けてみて下さいね。